渡り鳥の旅(三)
十月の半ば、群れは南の国の広い湖に着いた。 水は温かく、岸には枯れた稲が並んでいる。 田んぼには落ちた米が残っていて、いくらでも食べられる。
朝、湖の岸の建物から、人の声が流れてきた。
「今朝、今年最初のガンの群れが到着しました。この湖は国際的な条約で守られている大切な場所です。鳥に近づかないようにお願いします」
若いガンには、その放送の意味が分からない。 ただ、人間がこちらを見ながら、それ以上近づいてこないことは分かった。
冬の間、若いガンは毎朝田んぼへ行き、夕方湖に戻った。 同じ道を何度も飛ぶうちに、山の形と川の曲がり方を覚えた。
三月、また風が変わった。 今度は北からではなく、南からの風だった。 群れは北へ戻る準備を始めた。
出発の日、若いガンは列の後ろではなく、前から三番目に入った。 すぐ後ろに、去年の夏に生まれた小さいガンがいる。 羽の音を怖がって、少し離れて飛んでいる。
若いガンは首を回して、短く鳴いた。 あの夜リーダーが言ったのと同じことを、今度は自分の声で言った。
「私の後ろに入れ」
