忠義な犬(二の一)
ふと夜中になって、けたたましく犬の鳴き立てる声がしました。 驚いてりょうしは目を覚ましました。 ぼんやり消え残っているたき火の明りに透してみますと、中でいちばん賢い、獲物を捕ることの上手な犬が、火のまわりをぐるぐる回りながら、気違いのようになってほえ立てていました。 りょうしは何事が起こったのかと思って、山刀を持って飛び出して、そこらを見回りました。 けれども、何もそこにはほえ立てるような怪しいものの、影も形も見えませんでした。 ほかの犬たちも目を覚まさせられて、いっしょにわんわんほえながら、これもやはり獲物をかぎ回っていましたが、何も見つからないので、すごすご、しっぽを振ってもどって来ました。
その中でも、さっきの犬は、あいかわらず気違いのようにほえ回って、主人のすそを引っ張るやら、背中に飛びつくやら、たいそうらんぼうになって、しまいには今にもかみつくかと思うように、はげしく主人にほえかかりました。 だんだん、その様子がおそろしくなるので、りょうしも気味が悪くなりました。 刀を抜いておどしますと、犬はなおなおはげしく狂い回って、りょうしの振り上げる刀の下をくぐって、いきなりその胸に飛びつきました。 りょうしはびっくりして、思わず犬をつき放して、振り上げていた刀で、犬の首を切り落としてしまいました。 山の中があんまり寂しいので、気が変になって、犬が狂い出したのだと、りょうしは思ったのでしょう。
