見つからなかった眼鏡
良子の眼鏡は、大抵三つのうちのどこかにある。 台所の窓の横、電話の下、それから、居間の座布団の間。 七十六年生きていると、物のある場所は決まってくる。
朝ご飯のあと、良子は三つとも見た。 窓の横になかった。 電話の下にもなかった。 座布団を持ち上げても、出てこなかった。
仕方がないので、良子は棚の引き出しを開けた。 眼鏡は入っていなかったが、はがきが一枚入っていた。 二か月前に自分で書いて、切手まではった、松江の友達へのはがきだった。 夏の暑さのことが書いてあった。 出すのを忘れていた。
良子は少し笑った。 それから、はがきを持って玄関に立った。
眼鏡がないと、外に出るのは困る。 良子は靴箱の上の、安い眼鏡を思い出した。 去年、駅前の店で買って、合わないと思って、捨てるつもりだったものだ。 かけてみた。 よく見えた。 随分よく見える。
郵便局までは、歩いて七分ほどだ。 良子は郵便局の前の赤いポストにはがきを入れて、少し遠回りをして帰った。 適当に買った眼鏡でも、道も、看板も、空も、はっきり見えた。
