四つの角
夏祭りの夜、僕は初めて神輿をかつぐ側に入れてもらった。 中学生からしか入れないので、去年までは道の横で見ているだけだった。
うちの町の神輿は重い。 それに、通る道が変だ。 商店街をまっすぐ行けばいいのに、途中で薬局の裏の細い道に入る。 そして、自動販売機しかない暗い角で、必ず止まる。 止まると、大人たちが急に大きい声を出す。
三つ目の角で休んでいるとき、僕は隣にいた宮司さんに聞いた。
「宮司さん、どうしてこんなに遠回りするんですか。商店街をまっすぐ行ったら、半分の時間で終わるのに」
宮司さんは手ぬぐいで顔を拭きながら、笑った。
「はると君、ここまでで何回止まった?」
「二回です。ここで三回目」
「そうだね。全部で四回止まる。二百年前、この村には入り口が四つあったんだよ。今止まっている角が、その入り口だ」
「入り口って……。今、何もないですよ」
「今はね。昔はそこに橋があったり、木戸があったりしたんだ」
宮司さんは、暗いほうの道を指した。
「江戸時代に、この辺りで悪い病気がはやったことがある。薬もないし、医者も来られない。それで村の人たちは、神様に村の周りを回ってもらうことにした。四つの入り口で止まって、大きい声を出して、病気に入るなと言ったんだ」
「それで、あの声……」
「そう。あれは掛け声じゃなくて、お願いなんだよ」
僕はもう一度、来た道を見た。 薬局も自動販売機も、二百年前にはなかった。 でも、僕たちが今夜歩いている線は、そのころの村のふちと同じようだった。
「次、行くぞ」と誰かが言って、みんなが神輿の下に入った。
肩は痛かったし、汗で背中が気持ち悪かった。 それでも最後の角で神輿が止まったとき、僕は今までで一番大きい声を出した。
