八十キロの計算
日曜の夜、樺山は単身赴任先の街へ戻るため、高速道路に乗った。 出る前にシートベルトを締め、財布に免許証が入っているのを指で確かめる。 いつもの順番だった。
工事の渋滞に三十分はさまれたのが、この日の主な誤算だった。 二つ手前のサービスエリアは車が多かったのでパスした。 ミスはそれだけだ。
十時四十分、メーターにオレンジ色の明かりがついた。 この車は、その明かりがつくと、ガソリンが六リットルほど残っている。 一リットルで十三キロ走る。 六かける十三で、七十八キロ。
次のサービスエリアまでは十九キロ。 ただし、そこのガソリンスタンドは十時に閉まる。 もう入れられない。 その先のスタンドまでは、さらに六十一キロあった。 合わせて八十キロ。 二キロ不足する。
計算をやり直した。 速度を八十まで落として、エアコンを止めれば、一リットルで十四キロは走る。 十四かける六で、八十四キロ。 四キロの余裕ができる。 四キロなら、三分だ。
樺山はアクセルを緩めた。 窓を少し開ける。 のんびり走るトラックを見つけて、その後ろについた。 前と後ろをトラックにはさまれたまま、追い越しはしなかった。 万一、途中で止まってしまったら、路肩に寄せて電話するしかない。 そのことは考えないようにした。
小さな虫が何度もガラスにぶつかった。 丘を一つ越えると、谷の底に住宅の明かりが並んでいた。 一体あと何リットル残っているのか、メーターをのぞきこんでも分からない。 針の位置は、二十分前から動いていないように見えた。
八十キロを走るのに、ぴったり一時間かかった。 オレンジ色の明かりは消えなかったが、車も止まらなかった。 なんとかスタンドの明かりが見えたとき、樺山はほっとした。
給油機の数字が止まった。 三十七リットルと九百ミリリットル。 この車のタンクは四十リットル入る。 残っていたのは、樺山の計算より二リットル多かった。 八十キロの道で間違っていたのは、その二リットルだけだった。
