家を替えたヤドカリ
朝の海は静かだった。 岩の間の小さな水たまりに、れんとそらはしゃがんでいた。 浅い水の中で、小さな貝がゆっくり動いている。
「貝が歩いてる」とそらが言った。
れんがその貝をそっと持ち上げると、中から細い足とはさみが出てきた。 ヤドカリだ。 そらはバケツに海の水を入れて、その中にヤドカリを入れた。 それから、岩の上で拾った少し大きい貝も一緒に入れた。
十分ぐらい待ったころ、ヤドカリは古い貝から体を出して、すぐに新しい貝に入った。 あっという間だった。
「すごい。家を替えた」
「ヤドカリは体が大きくなると、貝を替えるんだって」とれんが言った。
そらはバケツを持って立ち上がった。 「これ、うちで飼いたい」
「うちに貝はないよ」とれんが言った。 「大きくなったときに替える貝がなかったら、困るでしょ」
そらはしばらくバケツの中を見ていた。 それから海のほうへ歩いて、さっきの水たまりの上でバケツを傾けた。 ヤドカリは水に落ちて、少しの間止まってから、砂の上を歩き出した。
「またね」とそらは言った。
