仙台行き
(深夜零時前、高速道路のサービスエリア。乗り換えのバスを待つ人が、自動販売機の明かりの下に十人ほど立っている。) 大輔:ありがとう。……ここまで送ってくれなくてもよかったのに。 千夏:はい、これ。あったかいほうがいいでしょ。どうせ眠れないし。それに、次に会えるのがいつになるか分からないから。 大輔:まあ、そうだな。 千夏:ねえ、本当に決めちゃったの。 大輔:うん。来月から仙台。転勤の話が来たとき、一週間ぐらい迷ったけどな。 千夏:一週間だけ? 大輔:一週間もだよ。俺、そんなに長く考えたことない。 千夏:断ればよかったのに。会社にはほかにも人がいるでしょ。 大輔:断れば、たぶん次はもう来ない。三十五でこの話が来たっていうのは、そういうことだと思う。 千夏:向こう、知ってる人いるの。 大輔:いない。だから行くのかもしれない。 千夏:どういう意味。 大輔:ここにいると、十年後の自分がはっきり見えるんだよ。嫌なわけじゃない。ただ、見えすぎる。 千夏:……理屈っぽいなあ、相変わらず。 大輔:怒ってる? 千夏:怒ってない。ただ、みんな順番にいなくなるなあって。 大輔:また戻ってくるつもりだよ。 千夏:みんなそう言うの。それで、誰も戻ってこないの。……ごめん。今のはなし。 大輔:いや、いいよ。たぶん千夏の言うとおりだ。 千夏:あ、来た。仙台行き。 大輔:荷物、これだけしかないんだ。あとは全部、先に送っておいた。 千夏:……気をつけてね。 大輔:うん。じゃあ。 (大輔はバスに乗った。窓は暗くて、中は見えなかった。扉が閉まり、バスはゆっくり高速道路に出ていった。千夏は、テールランプが小さくなって、見えなくなるまで立っていた。)
