バケツの決まり
アンナ:すみません、焼きそばを一つください。
店主:はい、焼きそば一つね。ちょっとそこで待ってて。
アンナ:あの、これは何のお祭りですか。旗に火の絵が描いてあるので、ずっと気になっていて。
店主:お、よく気がついたね。うちのは火の祭りだよ。秋葉さんっていう、火事を防ぐ神様のお祭り。
アンナ:火事を防ぐ神様。そういう神様がいるんですね。
店主:この町、明治のはじめに一度、全部焼けてるんだ。
アンナ:全部、ですか。
店主:うん。風の強い日でね。この通り、端から端まで残らなかったって。だから次の年から、みんなでお金を出して、秋葉さんにお参りするようになった。それが始まり。
アンナ:じゃあ、百五十年くらい続いているんですか。
店主:まあ、戦争のときは休んだし、去年は雨で一日だけだったけどね。
アンナ:みんなが持っている提灯、形が少しずつ違いますよね。あれは何ですか。
店主:町内ごとに違うの。火事のあとで、うちの町内はここからここまでって決めた線が、今もそのまま残ってるんだよ。
アンナ:じゃあ、提灯を見たら、どこの町内の人か分かるんですね。
店主:分かるよ。うちのは丸いやつ。……はい、焼きそば。熱いから気をつけて。
アンナ:ありがとうございます。あの、もう一つ聞いてもいいですか。
店主:どうぞ。
アンナ:火事のお祭りなのに、屋台はみんな火を使っていますよね。
店主:はは、よく見てるね。じゃあ、うちの屋台の後ろ、ちょっと見てみて。
アンナ:……バケツですか。水が入ってる。
店主:どの屋台にも一つずつ置いてあるよ。百五十年前からの決まり。祭りで変わってないのは、実はそれだけかもしれないね。
