戻ってきた年賀状
一月の終わりに、年賀状が一枚、戻ってきた。 宛て名の横に赤いマークがあり、小さな紙が貼ってある。 「あて所に尋ねあたりません」。
相手は、学生の頃、同じ下宿にいた友人だ。 三十年、毎年出している。 友人はメールをやらない人で、ほかに連絡の仕方がない。 大久保が知っている連絡先は、あの住所以外になかった。 郵便局では、転居届は一年で切れると言われた。
郵便番号は、まだ使える。 町名も地図に残っている。 変わったのは、番地から先だけだ。 そこを、どうやって探すか。
土曜日、大久保は電車で行った。 二回乗り換えて、二時間かかった。
下宿は、まだ建っていた。 軒下に、ツバメの古い巣が残っている。 三十年前と同じ場所だ。
大家のおばあさんは、九十を過ぎていた。 学生の時、世話になった人だ。 大久保の顔をしばらく見てから、「たまに、年賀状が来るよ」と言って、菓子の缶を持ってきた。
友人は、おととしの春、息子の家に移っていた。 缶の中の一枚に、新しい住所が書いてある。 千葉県。 市の名前。 町名。 そして、番地。
大久保は、戻ってきた年賀状を出した。 切手はまだ使える。 古い住所に線を引いて、その下に新しい番地を書いた。 二月三日、駅前のポストに入れた。 年賀状としては遅いが、住所は合っている。
