町の覚え方
手続きが終わって、野々村が紙を渡した。 カリムはまだ席を立たなかった。
「あの、一つ聞いてもいいですか」とカリムが言った。 「先週引っ越してきたので、まだ何も分からなくて」
「どうぞ。引っ越しは大変でしたね」
「建物はたくさんありますが、どれが何か分かりません」
野々村は少し笑って、紙の裏に丸を描き始めた。
「じゃあ、用事で覚えてください。荷物を送るときは郵便局。駅の南側ですから、帰りに寄れますよ」
「図書館は?」
「本もありますが、夏は冷房が効いていますよ。私の妻もよく行きます」
「すごいですね」とカリムは言った。
「財布を落としたら交番。駅前です。具合が悪いときは、南口の病院。地震のときは体育館へ。古い家は危険ですから」
「車は?」
「市役所の裏に駐車場があります。休みの日は、そこから歩いて博物館。となりが市民プールです」
カリムは丸を見て、もう一つ聞いた。
「友達を作りたいときは、どこへ行けばいいですか」
野々村は少し黙った。
「体育館です」と野々村は言った。 「日曜日の夜、バレーボールをやっています。私も行きます」
