まだ使っていませんが、星五つ
十時を過ぎても、ゆづきは電気ケトルをまだ決められずにいた。 テーブルの上には、二つの製品の写真が並んでいる。 そらは床に座って、その画面をのぞき込んだ。
「これとこれ、どこが違うの」とそらが聞いた。
「色と、値段が八百円。あと、こっちは注ぎ口が細い」とゆづきが答えた。 「比較の記事を三つ読んだけど、三つとも別のほうを勧めてるの。」
そらはお茶を飲みながら、レビューを上から順に読んでいった。 星の数だけを見れば、二つの製品はほとんど同じだった。 書いてあることも、どちらも同じくらい熱心で、どちらも同じくらい当てにならない。
「ねえ、明日、店舗に行って、実際に持ってみればいいじゃない」とそらは言った。 「重さは写真に写らないよ。試すのが一番早い。」
「駅前の店は、置いてる種類が少ないの」とゆづきは首を振った。 「ネットのほうがアクセスがいいでしょ。家から出ないで、全部の色が見られる。」
「見られるけど、持てない。」
ゆづきは答えないで、また画面を下へ動かした。 十一時になった。 そらは台所でお茶を入れ直して、戻ってきた。
「ちょっと聞いて」とそらが言った。 「今、いちばん上に出てるレビュー、読むよ。星五つ。『まだ使っていませんが、箱がとてもきれいでした。母への贈り物なので、安心しました。』」
ゆづきは画面から目を離した。
「その人、お湯を沸かしてないじゃない。」
「うん。星五つを付けてる人の半分は、たぶん沸かしてないよ」とそらは言った。 「残りの半分は、一回沸かして、熱かったって書いてる。」
しばらく、部屋は静かだった。 ゆづきはノートパソコンを閉じて、テーブルの端に押しやった。
「その駅前の店って、明日何時に開くんだっけ。」
