あと五十年
みさき:おじいちゃん、この枝、切ってもいい。
おじいちゃん:待て待て。どの枝がいちばん要らないか、先に決めなければならない。
みさき:えー。全部同じに見えるけど。
おじいちゃん:ほら、こっちの枝とこっちの枝、どっちが長い。
みさき:……こっち。
おじいちゃん:そう。長いほうを少しだけ切っておくと、来年、下の枝が伸びる。
みさき:来年って、遠いなあ。
おじいちゃん:盆栽は待つものだ。この松はな、みさきのお父さんより年上だぞ。
みさき:えっ、お父さんより。
おじいちゃん:親より先に、この鉢がうちに来た。おじいちゃんが二十歳のときだ。
みさき:じゃあ、私より五十歳ぐらい上だ。
おじいちゃん:そうだ。だから、手入れの日は急がなくていい。ゆっくり見て、ゆっくり切る。
(はさみの音がした。)
みさき:……あっ。
おじいちゃん:みさき。
みさき:ごめん、ちょっと切りすぎちゃった。
おじいちゃん:まあいい。おじいちゃんも、初めての日に同じ枝を切った。
みさき:本当に。
おじいちゃん:本当だ。五十年育てたら、この形になった。あと五十年は、みさきが育ててくれ。
