橋の数
けんは三月から、川沿いの道を走り始めた。 少し痩せたかったからだ。 高校の時に野球をしたことがあるが、それからは運動していなかった。 走り終わったら、毎回ノートに日記を書いた。 「五時半に起きた。一つ目の橋まで走った。疲れた」と書くだけの、短い日記だ。
川の道では、近所の森さんによく会った。 森さんはけんの顔を見ると、いつも「今日も走っていますね」と声をかけてくれた。
三週間たっても、体重は一キロしか減らなかった。 ある朝、けんは森さんに「もうやめようと思います。毎日走っても、痩せませんから」と言った。
森さんは「その日記、ちょっと見せてくれませんか」と言った。 けんはかばんからノートを出して、渡した。
森さんは最初のページを読んで、「一日目は一つ目の橋までしか走れなかったと書いてありますね。今日はどこまで走れましたか」と聞いた。
「三つ目の橋までです」とけんは答えた。 答えてから、けんは自分のノートをもう一度見た。 ページが進むと、橋の数が増えて、ペースも速くなっていた。
「体重は減らなくても、走れる道は長くなりましたよ。その日記、役に立ちましたね」と森さんは言って、ノートを返してくれた。
次の日、けんはまた川沿いの道を走った。
