こっちは、りなの
りなの家に行ったのは、赤ちゃんが生まれてちょうど一週間目の午後だった。 玄関に出てきたりなは、髪を後ろで一つに結んで、大学のときから着ているグレーのパーカーのままだった。
「ごめん、部屋、めちゃくちゃで」とりなは小さい声で言った。 「今やっと寝たところだから、寝てるうちに座って」
私は言われたとおり、そっとソファに座った。 テーブルの上には、ほ乳瓶とおむつと、飲みかけのお茶が置いてあった。
「抱っこしてみる?」
正直、困った。 私は生まれたばかりの赤ちゃんを抱いたことがなかった。 首が座るのは三か月ぐらいからだそうで、それまでは手で頭を支えないといけない。 知識としては知っている。 でも、手を出すのが怖かった。
りなは笑って、私の腕の形を直した。 「大丈夫。落とした人、見たことないから」
思い切って抱いてみると、思っていたよりずっと軽くて、そして温かかった。 赤ちゃんは目を開けないまま、口だけ小さく動かした。
「みほ、顔がこわい」とりなが言って、久しぶりに声を出して笑った。 「そんな顔で見てたら、泣いちゃうよ」
そのあと、りなは産休のことや、夜中に二時間おきに起きることを話した。 目の下にはっきり寝不足の跡があるのに、赤ちゃんの話をしているときだけ、声が明るくなった。
帰る前に、私は紙袋からもう一つ、小さい袋を出した。 中はコンビニのプリンだった。 大学のとき、試験が終わるたびに二人で食べていた、あのプリンだ。
「出産祝いは、そっちの箱ね。こっちは、りなの」
りなはプリンをしばらく見てから、鼻を鳴らして言った。 「この一週間、来た人はみんな、赤ちゃんにおめでとうって言ってくれたんだけどさ」
スプーンを取りに立ちながら、りなは続けた。 「私にくれたの、みほが初めて」
