電信柱と妙な男(五)
妙な男は困って、とうとう泣き出した。 かれこれするうちに、人が通り始めた。 電信柱は、とうとう帰る時刻を後れてしまって、やむをえず、とてつもないところに突っ立って、なに知らぬ顔でいた。 妙な男は独り、「おい、おい、電信柱さん、どうか下ろしてくれ。」と拝みながらいったが、もう電信柱は、声も出さなけりゃ、身動きもせんで、じっとして黙っていた。
通る人々は、みんな笑って、「こりゃ不思議だ、あんな町の真ん中に電信柱が一本立っている。そして、あの屋根にいる男が、しきりと泣きながら拝んでいる。」といって、あっはははと笑っていると、そのうちに巡査がくる。
さっそく妙な男は、盗賊とまちがえられて警察へ連れられていきましたが、まったくの盗賊でないことがわかって、放免されました。 それからというものは、妙な男は夜も外へ出なくなって、昼も夜もへやに閉じこもっていました。 そして、その電信柱も、いろいろ世間でうわさがたって、もう夜の散歩はやめたということであります。
