前の日に電話する車
バスが走らなくなった町は、日本中にたくさんある。 一日に二本だった路線が一本になり、やがてなくなる。 乗る人が少なければ、走らせるほうも続かない。
その代わりに増えているのが、「デマンド交通」と呼ばれる乗合タクシーだ。 時刻表はあるが、予約が入った日だけ走る。 誰も予約しなければ、その便は動かない。
使い方はこうだ。 前の日の夕方までに役場か運営会社に電話をして、名前と、乗る場所と、行きたい場所を伝える。 決まった停留所まで歩く必要はなく、家の前まで来てくれる地域も多い。 料金は一回三百円から五百円ほどで、タクシーというより、少し高いバスに近い。
利用する人の多くは、車を手放した高齢者だ。 病院、買い物、それから月に一度の集まり。 運転免許を返したその日から、この電話番号が生活の一部になる。
決まりは地域によってずいぶん違う。 前日までの予約が必要な所もあれば、一時間前でいい所もある。 隣の町までは出られない場合も多い。 だから、引っ越してきた人はまず、その土地の決まりを近所の人に聞くことになる。
そして、小さな町では、電話を受ける人が利用者の名前をほとんど覚えている。 「今日は病院ですか」と向こうから聞かれる。 予約の電話は、車を頼む申し込みであると同時に、その人が今日も元気でいるという知らせでもある。
