同じ板
叔母に荷物を届けて、用が済んだ。 真珠は駅と反対の方へ歩いた。 十年ぶりの商店街だった。
橋は同じだった。 石の色も、川の音も、昔のままだ。
交差点を渡ると、広場が駐車場になっていた。 市が植えたらしい細い木が、車の間に並んでいる。
歯医者はコンビニになり、市場のあった所には白いビルが建っていた。 歩道は新しくて広い。 しかし、通りの店は半分閉まっている。 郊外に大きなスーパーができたと、母が言っていた。
街が悲しいのではない。 ただ、知らない街になっただけだ。
通りの終わりに、床屋があった。 ガラスの向こうで、南さんが子供の髪を切っている。 椅子の上に板を置いて、その上に子供を座らせていた。
真珠も昔、あの板の上に座った。
南さんがドアを開けた。 「切っていきますか。」
真珠は首を振って、笑った。 「また今度お願いします。」
「是非。」
日が暮れかけていた。 真珠は駅へ向かった。 十年で街はほとんど変わった。 あの板だけが、同じ板だった。
