赤い懐中電灯
夏の夜、おばあさんは古い懐中電灯を持って、孫と一緒に浜へ下りた。 電球の前には、赤いセロハンが貼ってある。
「白い光はだめなの。赤ちゃんガメが海の方向を間違えるから」とおばあさんが小さい声で言った。
砂の上に、浅い穴が一つあった。 二人はその横に座って待った。 波の音だけが聞こえる。
十時を過ぎたころ、穴の砂が少し動いた。 黒い頭が一つ出て、次に足が出た。 そして、あとからあとから、小さいカメが穴からあふれてきた。 手のひらに乗るぐらいの赤ちゃんが、何十匹もいる。
赤ちゃんガメたちは、迷わず海へ向かった。 砂が柔らかくて、何度も転ぶ。 それでもみんな、同じ方向に進んでいく。
「どうして分かるの」と孫が聞いた。
「海の上のほうが明るいからよ」
孫が懐中電灯を海に向けようとしたので、おばあさんはその手を静かに押さえた。 「あの子たちを守るのは、光を当てないことなの」
最後の一匹が波の中に消えるまで、二人は動かなかった。
「おばあちゃんも、小さいとき見たの」
「見たよ。同じこの浜で。そのときは、おばあちゃんのお母さんがこの懐中電灯を持っていた」
おばあさんは電気を消して、孫の手を取った。 砂の上には、海に向かう小さい足の跡だけが残っていた。
