羅生門(二の二)
おばさんはうれしそうに入って来て、久し振りのあいさつがすむと、
「さっき、ものいみで門をあけないといったが、あれはどういうわけなのだね。」
と聞きました。
綱は鬼のことをくわしく話しました。 おばさんはだんだんひざを乗り出しながら聞いていましたが、
「まあ、不思議なこともあるものだね。だがわたしの育てた子がそんなえらい手柄をしたかと思うと、わたしまでうれしいとおもうよ。ついでにその鬼の腕というのを見たいものだね。」
といいました。
綱は気の毒そうな顔をして、鬼のいい残した言葉があるので、今日七日のものいみが明けるまでは、だれにも見せることができないというわけを、ていねいにいって断りました。 するとおばさんは悲しそうな顔をして、「まあ、よくよく縁がないのだね。なにしろ年を取って生い先の短い体だからね。しかたがない、あきらめましょう。」と、しおれ返っていいました。
その様子をみると、綱はまたどうしても鬼の腕を出して見せなければならないような気になって、
「ではせっかくだから、ちょっとお目にかけましょう。」
といって、箱をおばさんの前に持ち出して、ふたをあけました。
「どれ、どれ。」
とおばさんはいって、つとそばによりました。 そしてしばらくじっと箱の中をのぞき込みながら、
「まあ、これが鬼の腕かい。」
といって、いきなり左の腕を伸ばして、腕を取りました。
綱がはっと思う間に、おばさんはみるみる鬼の姿になって、空に飛び上がりました。 そして綱が刀を取って追いかけるひまに、破風をけ破って、はるかの雲の中に逃げて行きました。
綱はくやしがって、いつまでも空をにらめつけていました。
でも鬼はそれなりもうふっつりと姿を現しませんでした。 都の中でも鬼のうわさはぱったり止みました。
