町の小さな美術展
明子の住む町では、秋になると、毎年小さな美術展が開かれる。 プロの画家の展覧会ではない。 近所に住む人たちが、一年かけて作った作品を持ち寄って、公民館の一室に飾るのだ。
土曜日の午後、明子はその美術展をのぞいてみることにした。 入り口には手書きの看板があり、「今年の出品数、約四十点」と書かれていた。 思っていたより、ずっと多い。
中に入ると、壁には絵が並んでいた。 油絵もあれば、水彩画もある。 写真や、書道の作品もあった。 どれも、有名な人の作品ではない。 けれども、一つ一つに、作った人の時間と気持ちが込められているようだった。
一枚の絵の前で、明子は足を止めた。 近所の公園が、夕日の中で描かれている。 明子が毎日通る、あの公園だ。 絵の下には、小さな紙が貼ってあった。 「山田花子、七十八歳」。 八十近い人が、こんなにやさしい色で絵を描くのだと思うと、明子は少し驚いた。
会場の隅では、数人のお年寄りが、お茶を飲みながら話していた。 どうやら、自分の作品を見に来た人たちのようだった。 「今年は、孫が手伝ってくれてね」と、一人の女性がうれしそうに話している。 作品を作ることは、この人たちにとって、毎日を楽しくするための、大切な時間なのだろう。
こうした小さな美術展には、人を集めるための、派手な宣伝はない。 それでも、毎年少しずつ、出品する人も、見に来る人も増えているそうだ。 上手か下手かは、あまり関係ない。 自分の作ったものを、だれかに見てもらう。 その喜びのために、人は作品を作り続けるのかもしれない。
帰りに、明子は受付で一枚の紙をもらった。 来年の美術展の案内だった。 「あなたも、何か作ってみませんか」と書いてある。 明子は、少し考えた。 絵は得意ではない。 でも、写真なら、撮れるかもしれない。
外に出ると、空はもう夕方の色になっていた。 明子は、絵の中で見た、あの公園のほうへ歩き出した。 今日見た夕日を、今度は自分のカメラで写してみようと思いながら。 小さな美術展は、見に来た人の心にも、小さな何かを残していくようだった。
