松山鏡(一の二)
「おかあさん、京都ってそんなに遠い所なの。」
「ええ、ええ、もうこれから百里の余もあって、行くだけに十日あまりかかって、帰りにもやはりそれだけかかるのですからね。」
「まあ、ずいぶん待ちどおしいのね。おとうさん、どんなおみやげを買っていらっしゃるでしょう。」
「それはきっといいものですよ。楽しみにして待っておいでなさい。」
そんなことをいいいい、毎日暮らしているうちに、十日たち、二十日たち、もうかれこれ一月あまりの月日がたちました。
「もうたんと、ずいぶん飽きるほど寝たのに、まだおとうさんはお帰りにならないの。」
と、娘は待ち切れなくなって、悲しそうにいいました。
おかあさんは指を折って日を数えながら、
「ああ、もうそろそろお帰りになる時分ですよ。いつお帰りになるか知れないから、今のうちにおへやのおそうじをして、そこらをきれいにしておきましょう。」
こういって散らかったおへやの中を片づけはじめますと、娘も小さなほうきを持って、お庭をはいたりしました。
するとその日の夕方、おとうさんは荷物をしょって、
「ああ、疲れた、疲れた。」
といいながら、帰って来ました。 その声を聞くと、娘はあわててとび出して来て、
「おとうさん、お帰りなさい。」
といいました。 おかあさんもうれしそうに、
「まあ、お早いお帰りでしたね。」
