手が六本
火曜日の午後、公民館の二階には編み物の会の人が集まる。 この日、よしこは階段の下で新しいメンバーを迎えた。
「どうぞ、二階へいらっしゃってください。今日から一緒に編みましょう」
新しいメンバーは小さい声で「よろしくお願いします」と言って、いちばん後ろの席に座った。
はるえが毛糸のかごを持ってきた。 「はい、好きな色を選んでね」
「私、まだ何も編めなくて……」
「大丈夫よ。よしこさんが教えてくれるから」とはるえが笑った。 「この人、四十年編んでるの」
新しいメンバーは青い毛糸を取った。 娘の誕生日にマフラーをプレゼントしたいのだと言う。
「じゃあ、模様は簡単なのがいいわね」とよしこが言った。 「初めてなら、まっすぐ編むだけでも十分きれいよ」
「でも、誕生日は来月なんです。間に合わないかもしれません」
よしこは指で数えた。 「一日に十センチ編めば、来月の初めには終わるはずよ」
「私、そんなに速くできません」
はるえとよしこは顔を見合わせた。 それから、はるえが新しいメンバーの前に自分の椅子を持ってきた。
「間に合うわ」とよしこが言った。 「ここには手が六本あるんだから」
