土曜の補習
(金曜の夜十時、塾の講師室。授業が終わって、智也と亜美のほかには誰もいない。)
智也:亜美先生、ちょっといいですか。土曜の補習のことなんですけど。
亜美:あ、私もその話しようと思ってた。
智也:じゃあ話が早い。あれ、代わってもらえませんか。
亜美:え。
智也:亜美先生、この前、残業代がどうとか言ってたじゃないですか。土曜は手当もつくし。
亜美:……ちょっと待って。私、その逆をお願いしようと思ってたんだけど。
智也:逆?
亜美:智也先生に代わってほしいって。だって土曜、デートでしょ。
智也:は?
亜美:先週、スマホ見ながらずっとニヤニヤしてたじゃない。
智也:あれ、姉の子の写真です。三歳の。
亜美:……三歳。
智也:土曜は姉が用事で、俺が動物園に連れて行く約束してるんです。今さらキリンは中止とは言えないでしょう。
亜美:言えないね。
智也:亜美先生のほうは、手当の話じゃないんですか。
亜美:私は大学の同期の結婚式。二次会だけでも来てって、半年前から言われてて。
智也:手当は。
亜美:それはそれで、ほしいけど。
(二人ともしばらく黙っていた。)
智也:……補習、二時間ですよね。
亜美:前半だけなら、私、出られる。式は夕方だから。
智也:じゃあ後半は俺が。動物園、午前中で十分だし。
亜美:三歳ならそうだね。二時間もいたら寝るよ。
智也:決まりですね。生徒には、先生が二人来るからお得だって言っておきます。
亜美:それ、お得なのかな。
智也:じゃあ、来月の補習は。
亜美:……それは、じゃんけんで。
