木造の駅の写真
宗像が母から渡されたのは、茶色い封筒だった。 中には、父が四十年前に撮った町の写真がおよそ三十枚入っている。 木造だったころの駅と、たしか宗像が生まれる前になくなった橋。 母は郵便局に持って行こうとしたが、送る先が分からなかった。 あるいは捨てるしかないのかとも思ったが、日曜日の午後、宗像が自転車で回ることになった。
最初は市役所だった。 窓口で封筒を見せたら、住民の手続きとは関係がないので、古いものなら博物館で聞いてくださいと言われた。
博物館は、いわゆる郷土の資料館で、中は江戸時代の農具ばかりだった。 ガイドの人は写真を一枚ずつ見て、いい写真ですねと言ってくれた。 けれども、四十年前は展示にするには新しすぎるらしい。 博物館なら昔の写真も集めているイメージだったが、町の記録を残しているのは図書館の方だと教えられた。
図書館では、二階の郷土資料の棚まで連れて行かれた。 どうにか置いてもらえないかと頼んだが、そこに置けるのは印刷された本だけで、写真そのものは受け取れないという。 タイミングも悪く、担当の人は水曜日まで休みだった。 ただ、来月、体育館で町の写真展があると教えてくれた。
三つ目の建物を出たときは、さすがに足が痛くなっていた。 とりあえず自転車に戻ったところで、宗像は手が軽いことに気がついた。 封筒がない。 図書館のカウンターに置いたまま出てきたのだ。 走って戻ると、封筒はもう一階の受付に届けられていた。 落とし物として。 中に何が入っているかを言えたので、受付の人はすぐに返してくれた。
体育館に着いたのは四時前だった。 受付の机に段ボール箱が一つ置いてあって、写真展の準備をしているグループの女性が座っていた。 箱の中をのぞくと、写真はどれも今の駅だった。
「あの、古い写真なんですが」と宗像が封筒を出した。
「木造だったころのが、一枚も集まらなかったんです」とその人が言った。 「おかげさまで、壁が埋まります。」
宗像は三十枚を机に並べた。 四つの建物を回って、三時間半がたっていた。
