二人とも北海道行ってない
(渋谷のカフェ。二人ともテーブルに紙袋を置いている)
さやか:はい、これ、お土産。
えりか:ありがとう。あ、じゃあ、こっちも。
さやか:えー、いいのに。
えりか:先、開けて。
さやか:うん。……なにこれ、重い。
えりか:重いよね。持って帰るの大変だった。
さやか:熊だ。
えりか:え。
さやか:木の熊。口に魚くわえてる。なんか、ここ尖ってるんだけど。
えりか:それ、魚のしっぽ。
さやか:あー、しっぽか。
えりか:……ちょっと待って。わたしも今開ける。
(えりかが紙袋から出したのは、同じ木彫りの熊だった。大きさまでほとんど同じだった)
さやか:うそでしょ。
えりか:うそじゃない。
さやか:わたし、別府だよ。九州。
えりか:わたし草津。群馬。
さやか:全然違うじゃん。
えりか:だよね。
さやか:わたし、これ選ぶのに三十分かかったんだよ。
えりか:わたしも。ほかにも、いろいろあったのに。
さやか:あったよね。木の刀とか、温泉まんじゅうとか。
えりか:それで、二人とも熊。
さやか:ねえ、これ、どっちも北海道のやつじゃない?
えりか:北海道のやつだと思う。
さやか:二人とも北海道行ってないのに。
えりか:行ってない。
さやか:なんで温泉に熊がいるの。
えりか:温泉の土産物屋、だいたい熊いるよ。
さやか:えりかは、なんで熊にしたの。
えりか:顔。この顔がなんか、疲れてる感じで。
さやか:分かる。それで買った、わたしも。……今、思い出した。三年前の熱海のも熊だった。
えりか:それ、まだ持ってる?
さやか:ある。棚の上に。
えりか:じゃあ、三匹だ。
さやか:三匹。
えりか:写真撮ろ。二匹並べて。
さやか:撮る撮る。……ねえ、やっぱり三匹で並べたい。
えりか:今から行く?
さやか:行こう。
