四年かけて帰る
十月の千歳川は冷たかった。 芽衣は父親と一緒に、川にかかった木の橋の上に立っていた。
水の中を見ると、黒くて大きい魚が何匹も並んでいる。 サケだ。 体はところどころ白くなって、ひれも切れている。 強い流れの中で、少しずつ、少しずつ前に進んでいた。
「あの魚、止まってるみたい」と芽衣が言った。
「止まってないよ。よく見て」
一匹が急に尾を振って、浅いところを越えた。 次の魚も続いた。 中には流されて、また下から上がってくるのもいた。
「どうしてそんなに上るの」
「この川で生まれたからだよ」と父親が言った。 「四年前にここから海に出て、帰ってきたんだ」
芽衣はしばらく黙って見ていた。
橋を下りて岸を歩くと、石の上にサケが一匹横になっていた。 もう動かない。 芽衣が少し下がると、父親は指で浅い水の中を示した。 石が丸く動かされて、小さなくぼみができている。
「この下に卵があるんだ」
川の音のほかには、何も聞こえなかった。 芽衣はそのくぼみを長い間見ていた。
