四年ぶりに乾いた場所
熊井の文房具店と篠塚の乾物屋は、商店街のいちばん奥で、壁をくっつけて並んでいる。 二軒の間には、熊井の店の古い雨どいが一本、屋根から下まで通っている。
四年前の秋、たしか十月の終わりに、その雨どいの継ぎ目が少しずれた。 雨が降るたびに、水はそこから横に飛んで、篠塚の店の前に落ちるようになった。 篠塚は毎朝、ぬれた段ボールをかかえこんで裏に運んだ。 とりあえずバケツを置いてみたが、風の強い日には何の役にも立たなかった。
はじめは口論だった。 篠塚が、どうにかしてくれと言い、熊井が、うちの雨どいだが道は皆のものだと答えた。 商店街の会合でも一度揉めたが、熊井が悪いのか、あるいは建物の作りが悪いのか、誰にも分からなかった。 責める言葉が二つか三つ出て、それで終わった。 争いというほどのものではない。
ただ、その日から二人は話さなくなった。 対立というより、話しかけるタイミングを二人とも失っただけだった。 あらゆる集まりで顔を合わせながら、およそ四年、一言も交わさなかった。 さすがに近所の人も、その話をしなくなった。 どんなふうに始まったのか、覚えている人はもう少ない。
今年の夏、商店街の建物をまとめて塗り直す工事が入った。 足場に上がった若い職人が、雨どいの継ぎ目がずれていることに気づき、金具を一つ足して、まっすぐに直した。 三十分もかからなかった。 彼は二人の店主の顔も、四年間のことも知らない。
九月の初めに、大きな雨が降った。 次の日の朝、篠塚が店の前に出ると、水たまりがなかった。 熊井も外に出ていた。
「乾いてるな」と熊井が言った。
「乾いてるね」と篠塚が言った。
仲直りをしたわけではない。 二人はそのあと天気の話を少しして、それぞれ店に入った。 四年間ぬれていたその部分だけが、乾くと、まわりのアスファルトより白っぽく見えた。
