二ページ
(十年ぶりに会った喫茶店。窓の外は雨)
ちひろ:のぞみ、ずっと言えなかったことがあるんだけど。
のぞみ:なに、急に。
ちひろ:中学のとき、のぞみの日記、読んだ。
のぞみ:……日記。
ちひろ:うん。合宿の夜、鞄から出てて。二ページくらい。全部じゃない。
のぞみ:二ページ。
ちひろ:あのころ、のぞみが急に部活来なくなって、理由が分からなくて。
のぞみ:それで読んだの。
ちひろ:読んだ。心配だったっていうのは、言い訳になるけど。
のぞみ:言い訳だね。
ちひろ:うん。分かってる。
のぞみ:ちひろ、それ、ずっと持ってたんでしょ。持ってるの、しんどかったでしょ。
ちひろ:……うん。
のぞみ:わたしは、今日から持つんだね。
ちひろ:ずっと引っかかってて。今日会うって決まってから、ちゃんと言おうって思ってた。
のぞみ:ふうん。
ちひろ:黙ってるより、言ったほうがいいと思って。
のぞみ:それ、ちひろが楽になるだけじゃない?
ちひろ:……そうかも。でも、隠したままだと。
のぞみ:あの日記に何が書いてあったか、覚えてる?
ちひろ:……うん。
のぞみ:じゃあ、十年、覚えてたんだ。
ちひろ:忘れようとはした。
のぞみ:わたしは、あの年のこと、誰にも話してない。母にも話してない。
ちひろ:本当にごめん。
のぞみ:謝られると、余計に、読まれたって感じがする。
ちひろ:そんなつもりじゃなかった。
のぞみ:ずっと、なんで三年の春から急にちひろが優しくなったんだろうって思ってた。
ちひろ:気づいてたの。
のぞみ:気づいてはいない。ただ、今、全部つながった。……ねえ、話題変えていい?
ちひろ:うん。
のぞみ:仕事は。まだ大阪?
ちひろ:うん、大阪。のぞみは?
のぞみ:変わらない。
ちひろ:そう。
のぞみ:ここは出すね。
ちひろ:え、いいよ。
のぞみ:いいから。次はちひろが出して。
ちひろ:うん。次、いつごろ。
のぞみ:分かんない。また連絡する。
(のぞみが先に店を出た。雨はまだ降っていた。)
