父さん抜きの話し合い
隆:由美、この前送ったパンフレット、見た?
由美:見たよ。
隆:どう思う。駅から近いし、部屋も思ったより広いだろう。
由美:……お兄ちゃん、あそこ、月にいくらかかるか見た?
隆:見た。二人で少しずつ出せば、父さんの年金と合わせて何とかなる。
由美:お金の話をしてるんじゃないの。
隆:じゃあ何の話だよ。
由美:父さん、あの家からは出ないよ。庭に母さんの植えた木があるのに、置いていけるわけないでしょ。
隆:木のために、八十過ぎた人をあの家に一人でいさせるのか。
由美:一人じゃない。私が週に三回行ってる。
隆:……それがきついって、この前電話で言ってたじゃないか。
由美:言った。言ったけど、施設に入れてほしいとは言ってない。
隆:じゃあ、由美はどうしたいんだ。
由美:まずヘルパーさんに来てもらう日を増やして、しばらく様子を見たい。
隆:それ、結局、由美の負担は変わらないだろう。
由美:変わるよ。少しは。
隆:少しか。
由美:私が実家に戻って同居するっていう話も、去年出たよね。
隆:それは違うだろ。由美には家族もいるし、仕事もある。
由美:……お兄ちゃんは、名古屋にいるから、そういうことが言えるんだよ。
隆:それは……そうだな。
由美:ごめん。今のは言いすぎた。
隆:いや、いい。……実は、会社に相談したんだ。こっちに戻れないかって。だめだった。それで、あのパンフレットを集めた。
由美:そうだったの。
隆:母さんのときも、結局、全部由美にやらせてしまった。あのとき、無理にでも帰ればよかったと思ってる。
由美:あのころは、私も誰にも言えなかったから。今だって、三人でちゃんと話し合ったこと、一度もないよね。
隆:……由美。父さんは、なんて言ってるんだ。
由美:え。
隆:施設のこと。父さん本人は、なんて。
由美:……聞いてない。
隆:俺も聞いてない。
由美:私たち、父さんの話を、父さん抜きでずっとしてる。
隆:今度の日曜、帰るよ。三人で話そう。
由美:日曜は、父さんデイサービスの日。
隆:じゃあ、俺が迎えに行く。そのまま実家で、三人で座って話せばいい。
由美:うん。……お兄ちゃん、パンフレットも持ってきて。父さんに見せよう。嫌だって言うかもしれないけど。
隆:言うだろうな、絶対。
由美:それでいいの。父さんが言ったなら。
