川沿いの四キロ
会社を出た大輔は、駅とは反対の方向へ歩いた。 ロッカーに入れておいたシャツと靴に着替えて、川沿いの道に降りる。 走り始めたのは三年前だ。 仕事のストレスを何とかしたくて、同僚に勧められたのがきっかけだった。
腕には、そのとき買った時計をつけている。 走った距離と時間と、一キロあたりのペースが出る時計だ。 最初のころは、その数字が少しずつよくなっていくのが嬉しかった。 三年の間に、フルマラソンも一度走ったことがある。
橋の下を過ぎると、三キロの標識が見えてくる。 いつもならここで時計を見る。 今日は見なかった。
夕方の川は水の色が濃くて、犬を連れた人と、部活帰りらしい高校生が土手を歩いている。 走りながら、大輔は今日の会議のことを考えていた。 数字は悪くない。 部長にも褒められた。 来月には、少し大きな担当を任せてもらえるようだ。 それなのに、会議室を出たときの気持ちは、走り終わったあとの気持ちに少し似ていた。 終わった、という感じだけがあって、その先がない。
もう一つ上の数字を出せば満足できると、ずっと思っていた。 営業の数字も、時計の中の数字も同じだ。 上がっても、次の日にはまた足りなくなる。 追いかけていた満足は、たぶん最初からその先になかったのだ。
四キロの標識で、大輔はゆっくり足を止めた。 時計を見ると、いつもより二分も遅い。 それでも、息が整うまでの間、気持ちは静かだった。
辞めよう、と大輔は思った。 ただの自己満足かもしれない。 それでも、走りながら決めたことにしては、驚くほど落ち着いていた。 時計のボタンを押して、大輔は家のほうへ歩き出した。
