朝の港で
田村:おう、中村さん。今日はどうだった。
中村:だめだ。三十キロもないな。去年の今ごろは、百キロ入ってたのに。
田村:うちも同じだよ。海の水が温かいんだろう。魚が北へ行ったみたいだ。
中村:それに油だ。先月からまた上がっただろう。一回出るのに、二万円かかるんだぞ。
田村:燃料代のほうが魚の値段より高い日もあるからな。
中村:市場の値段は上がらないしな。この町の産業は漁業しかないのに、これじゃあ町の経済も苦しくなるよ。
田村:うちの息子は、もう新しい船は買うな、って言うよ。
中村:……賢いな。
田村:だろう。……明日は波が高くなるみたいだから、船は出せないだろうな。
中村:じゃあ、網を直す日だな。ところで、その箱、まだ水揚げしてないやつか。
田村:ああ、アジだ。持っていってもいいぞ。今日、市場に出しても値段がつかない。
中村:いいのか。
田村:晩のおかずにしてくれ。……そうだ、聞いたか。おまえんとこの孫のこと。
中村:孫?
田村:この前、港で会ったら、水産高校に行くって言ってたぞ。
中村:……あいつ、俺には何も言わないくせに。
田村:明日は網を直して、船もきれいにしとかないとな。
