審判の仕事
朝の漁港は風が冷たかった。 七海は網を直している博の横に立った。
「博さん、返事、まだですよね」と七海が言った。
博は手を止めない。 「何の話だ」
「今年の舟こぎ競争です。審判のお願いの手紙を、先週出しました」
博は網を日に当てた。 「ああ、あれか」
七海は待ったが、博は何も言わなかった。
「今年も漕ぎたいなら、そう言ってください」
「漕ぎたくないわけじゃない」と博が言った。 「そこじゃないんだ」
「じゃあ、どこですか」
博は網を置いて、しばらく海を見た。 「審判ってのは、何をするんだ」
「……そこですか」
「そこだ。紙には『審判をお願いします』としか書いてなかった。書いて聞くのは、格好が悪いだろう」
「難しくないですよ」と七海は言った。 「舟が出る前に人数を数えて、赤い旗の下に立って、先に着いた町の名前を言う。それだけです」
博は少し考えた。 「数えて、立って、名前を言う」
「はい」
博はまた網を持った。 「それなら、できる。先に言ってくれれば、一週間も待たせなかったよ」
「聞けばよかったですね」と七海が言った。 「来年は電話にします」
