浦島太郎(四の二)
と、声をかけますと、おばあさんはけげんそうに、しょぼしょぼした目で、浦島の顔をながめながら、
「へえ、浦島太郎。そんな人はきいたことがありませんよ」
といいました。 浦島はやっきとなって、
「そんなはずはありません。たしかにこのへんに住んでいたのです」
といいました。
そういわれて、おばあさんは、
「はてね」と、首をかしげながら、つえでせいのびしてしばらくかんがえこんでいましたが、やがてぽんとひざをたたいて、
「ああ、そうそう、浦島太郎さんというと、あれはもう三百年も前の人ですよ。 なんでも、わたしが子どものじぶんきいた話に、むかし、むかし、この水の江の浜に、浦島太郎という人があって、ある日、舟にのってつりに出たまま、帰ってこなくなりました。 たぶんりゅう宮へでも行ったのだろうということです。 なにしろ大昔の話だからね」
こういって、また腰をかがめて、よぼよぼあるいて行ってしまいました。
浦島はびっくりしてしまいました。
「はて、三百年、おかしなこともあるものだ。 たった三年りゅう宮にいたつもりなのに、それが三百年とは。 するとりゅう宮の三年は、人間の三百年にあたるのかしらん。 それでは家もなくなるはずだし、おとうさんやおかあさんがいらっしゃらないのもふしぎはない」
