三十分の講評
遥は模型を両手で抱えて、製図室のドアの前に立っていた。 中からは、黒田先生の声が漏れてくる。
建築学科の三年生は、学期の終わりに自分が設計した住宅の模型を持って講評を受ける。 黒田先生の講評は学科で一番厳しいと言われていて、去年は泣きながら出てきた学生もいたらしい。 遥は朝から何も食べていなかった。
前の学生が呼ばれた。 ドアが閉まっていても、話の中身はだいたい分かる。 「これは家じゃない。絵だ」という声が、廊下まではっきり聞こえてきた。 十分もしないうちに、その学生は模型を抱えて出てきた。 顔が赤かった。
自分の番が来た。 遥は模型を机の真ん中に置いて、説明を始めた。 三世代が一緒に住むための小さな住宅で、真ん中に中庭を取ってある。 半年かけて考えた案だった。
黒田先生は模型を横から見て、それから屋根を外して中をのぞいた。
「この中庭は、冬にどうなる」
「……日は入ります」
「何時間だ。具体的に言えるか」
言えなかった。
「二階のこの部屋は、誰が使う」
「祖母の部屋です」
「階段は。八十歳が、この階段を毎日上がれると思うか」
遥は答えられなかった。 一つ一つ、自分でも気づいていたことばかりだった。 気づいていて、時間がなくて、見ないことにしていた場所だ。 質問は三十分続いた。 終わったとき、模型を持つ遥の手はまだ少し震えていた。
その日の夜、同級生から連絡が来た。 黒田先生が事務室に、遥の模型を学科の展示に残すように頼んだという話だった。 展示に出るのは、毎年三つか四つだけだ。 何かの間違いのようにも思えた。
遥はもう一度、自分の模型を机の上に置いた。 中庭の日当たりは計算し直さなければならない。 階段も、もっと緩くできるはずだ。 あの三十分の質問は、どこを直せばいい家になるのかを、一つずつ教えていたのだと、今になって分かった。
黒田先生は、前の学生には十分しか使わなかった。
