まだまだ動く時計
祖父が死んだのは去年の春だ。 大輔がもらった古い腕時計は、その日から動かない。
大輔は駅前の小さい時計屋のドアを開けて、カウンターに腕時計を置いた。
「これ、まだ動きますか。祖父のものなんですけど」と大輔が言った。
店員はルーペを目に当てて、しばらく時計を見ていた。 「大丈夫ですよ。中を掃除したら、また動きます。大体六十年ぐらい前のものですね」
「六十年……」
「裏を見たことがありますか」
大輔は首を横に振った。 店員は時計を裏返して、小さい蓋を開けてくれた。 中に細い字が書いてあった。
「健一へ、二十歳のお祝いに、父より」
大輔はびっくりした。 健一は祖父の名前だ。 祖父もこの時計を、誰かからもらったのだ。
「どのぐらいかかりますか」と大輔が聞いた。
「そうですね、一週間ぐらいで直ります。まだまだ動きますよ、この時計は。あと六十年は大丈夫でしょう」
大輔は「じゃあ、お願いします」と言って、時計を店員に渡した。
