見えるほう
笹本さんの部屋は、ストーブで暖かかった。
「こころちゃん、歌、覚える?」
こころはセーターを脱いで、前に座った。
「頭、耳、鼻、歯。」笹本さんは歌いながら、順番にさわった。
こころも同じようにした。
「次は、喉。」
こころは口を開けて、舌を出した。
「そっちじゃないよ。それは舌。喉はここ。」
「ごめんなさい。」
もう一度歌った。 しかし、三回目も舌だった。
「保育園の歌は『した』だよ。」とこころが言った。 「『した』は見えるもん。」
笹本さんはコップの水を飲んで、鏡の前で口を開けた。 白い歯と赤い舌が見えた。 喉は見えなかった。
「さあ、今度はおばあちゃんが習うね。」
頭、耳、鼻、歯、舌、腕。 二人は同じところをさわった。
