耳の先が黒い子
(土曜日の午後、二人の部屋。テーブルの上に、譲渡会でもらった紙が置いてある。)
ゆうか:まだ見てるの、それ。
そうた:見てるっていうか、もう十回見た。
ゆうか:どの子だっけ。
そうた:三番目の、耳の先が黒いやつ。二歳。
ゆうか:写真、すごい真顔だったね。
そうた:真顔だった。
ゆうか:で、どうするの。ちゃんと考えようって言ったの、そうただよ。
そうた:言った。だから、心配なことを全部出してから決めたい。
ゆうか:じゃあ、一つ目。この部屋、ペット可なんだよね。
そうた:可。契約書、昨日もう一回読んだ。猫一匹までって書いてある。
ゆうか:二つ目、お金。
そうた:ワクチンと健康診断で、最初に三万ぐらい。あとは月に五千円ぐらいかな。えさと砂で。
ゆうか:それは半分ずつでいい?
そうた:いい。
ゆうか:三つ目が、たぶん一番大事。
そうた:トイレでしょ。
ゆうか:トイレ。砂の処理、絶対にどっちかがやらなくなるやつだよ。
そうた:うちの実家がそれだった。最後は母親が全部やってた。
ゆうか:うちも。姉が飼うって言って、掃除は私だった。
そうた:じゃあ、朝は僕、夜はゆうか、でどう。
ゆうか:曜日で分けたほうがよくない? 朝に弱い人がいるから。
そうた:……その言い方はやめて。
ゆうか:事実でしょ。
そうた:分かった。平日の朝は僕、土日はゆうか。忘れたほうが、次の週も続けてやる。
ゆうか:それ、いいね。協力っていうより、罰があるほうが続く。
そうた:四つ目は?
ゆうか:旅行。二人とも実家に帰る年末は、どうするの。
そうた:ペットホテルか、預かってくれる友達。年に一回なら、なんとかなると思う。
ゆうか:……なんだ。全部答えがあるじゃん。
そうた:一週間考えてたから。
ゆうか:じゃあ、決定でいい?
そうた:いい。申し込みの書類、出しに行こう。
ゆうか:書類の受付、平日しかやってないって書いてあったよ。
そうた:じゃあ月曜、午前休を取る。
ゆうか:早いね。
そうた:早くない。十回写真を見た。
ゆうか:名前、どうしよう。
そうた:それは、三時間かけて検討しよう。
