かごの中の虫の名前
三人目の面接が済んだのは、日が暮れてからだった。 羽田は夕飯の支度を始め、ののかは椅子を片づけた。
「うちは明るい人がいいって、二人で言ってたよね。積極的な人」と羽田が言った。
一人目は確かに明るかった。 自分の専門の話を四十分して、帰るまで一つも質問しなかった。 二人目は格好もよくて話も面白かったが、彼氏がたまに泊まると言った。
三人目は内気な人だった。 声が小さくて、こちらが尋ねないと何も言わない。 ただ、質問は二つした。 洗濯機は何時まで使っていいか、ゴミの日は誰が出すか。
帰る前に、その人はののかのかごの前で足を止めて、中の虫の名前を言った。 部屋を見に来た人で、あの珍しい昆虫の名前を言えたのは初めてだった。
「性格は大人しいけどさ」とののかが言った。 「人柄はいいよ。賢いし、わがままじゃない。うちのことを先に考えてる」
羽田は箸を並べる手を止めた。 明るい人がいい、と言ったのは自分だった。
「じゃ、決まりだね」
羽田は台所に戻って、皿を三枚出した。
