最初に書く字
書道と聞くと、額に入った美しい作品を思い浮かべる人が多い。 しかし、習い始めた人が最初にすることは、字を書くことではない。
まず、道具の準備がある。 硯に少し水を入れ、墨をゆっくりする。 教室によっては初めから液体の墨を使うが、自分で墨をするところもまだ多い。 これに十分ほどかかる。 急ぐと、色が薄くなったり、濃さがそろわなかったりするので、ゆっくりやるしかない。
次に姿勢だ。 背中をまっすぐにして、机との間にこぶし一つ分の空間をあける。 筆は鉛筆のようには持たない。 指で強く握らず、紙に対して立てて持つ。 この基本的な形ができるまでに、何日もかかる人がいる。
そして、最初に書く字は、たいてい「一」である。 横の線が一本だけ。 簡単に見えるが、実際に書いてみると、太さも、始まりと終わりの形も、まったくそろわない。 まっすぐな線を一本引けるようになるために、同じような紙を何十枚も使う。
日本の小学校では、三年生から毛筆の授業がある。 全員を書道家にするためではない。 理由の一つは、書道が「消せない」ことにある。 鉛筆なら消しゴムで直せるし、パソコンなら何度でも書き直せる。 けれども、紙に落ちた墨は動かせない。 一度置いた筆をこのあとどう続けるかを、その場で決めなければならない。
伝統的な文化だから残っているというより、この「やり直せない」という経験のために、書道は今も学校に残っているのだろう。
