宛先に増える名前
会社で意見が合わないことは、どこの職場にもある。 ただ、それがそのまま口論になるとは限らない。 多くの勤め先では、対立がはっきり表に出る前に、小さな動きがいくつも起きている。 規則で決められたものではなく、その場所で長い時間をかけてできた習慣に近い。
一つ目は、会議の前に話しておくことだ。 反対しそうな人に、前の日のうちに一人ずつ声をかけておく。 会議の場で急に反対されるより、その方が話が早いと考えられている。 二つ目は、人を間に入れることだ。 本人に直接言わず、共通の知り合いや同じ課の先輩に、内緒で先に相談する。 三つ目は、言い方を変えることだ。 「それは違います」ではなく「そういう見方もありますね」と言う。 意見の中身よりも、その場の関係を保つことに価値を置く人は少なくない。
もちろん、うまくいかないこともある。 予定が遅れ、責任の話になると、揉める。 声が大きくなり、言い争いになる。 衝突が誰の目にも見える形になると、上の人が呼ばれ、話はそこから事務的に処理される。 そこでは、対立は個人と個人の問題ではなく、部と部の問題として説明し直されることが多い。 そのままでは仕事が進まず、会社の利益にもならないからだ。
その後の仲直りの形も、勤め先によって違う。 正式な和解の場が作られることは少ない。 多くの場合は、次の日にいつも通り出社して、いつも通り仕事の話をする。 それが仲直りの代わりになる。 もう一度はっきり言い直すには、また別の勇気がいる。 全ての職場がこうだとは言えないし、人によっても違う。
それでも、外から見ていて分かりやすい合図が一つある。 話がうまく進まなくなると、その日のメールの宛先に、上司の名前が静かに一つ加わる。
