日付のある半紙
みさきは、夏休みの間だけ、おばあちゃんの家で書道を習っている。 庭に面した六畳の和室に新聞紙を広げて、その上に半紙を置く。 おばあちゃんは正座したまま、みさきの手元をじっと見ている。
一枚目。 みさきは急いで筆を下ろした。 墨がたっぷりつきすぎていて、線の終わりが大きくにじんでしまった。
「墨が多いね」とおばあちゃんが言った。 「筆の先を、硯のふちで少し落としてごらん」
二枚目。 今度は墨を落としすぎた。 線は細く、途中で震えている。 書き終わったとき、みさきは自分が息を止めていたことに気づいた。
「もう一回」とおばあちゃんは静かに言った。 筆の持ち方は直さなかった。 代わりに、みさきの背中に手を当てた。
「基本的なことだけどね。まっすぐな線を書くために、まず背中をまっすぐにするの。姿勢がよくなれば、線もよくなるよ。息をしながら書きなさい」
三枚目。 みさきは背中を伸ばして、ゆっくり息を吐きながら筆を動かした。 「一」という字が、静かに紙の上を進んでいく。 今度はにじまなかったし、震えもしなかった。
おばあちゃんは、その半紙をしばらく見ていた。 それから、隅に小さく日付を書いて、押し入れから古い紙ばさみを出した。
中には、同じような半紙が何十枚も入っていた。 どれにも日付が書いてある。 一番下の一枚は、みさきが六歳のときの、ほとんど絵のような「一」だった。
「毎年、少しずつ改善しているでしょう」
みさきは何も言わずに、四枚目の紙を広げた。
