カーテンは壁ではない
カプセルホテルには、細かい規則を書いた紙があまり貼っていない。 それでも、泊まった人はだいたい同じように振る舞う。 その理由は、この宿の作りの中にある。
まず、玄関で靴を脱ぐ。 下駄箱に入れて鍵を取り、受付に出すと、代わりにロッカーの鍵をもらう。 その番号が、そのまま自分のロッカーとカプセルの番号になっていることが多い。 だから鍵をなくすと本当に困る。 風呂に入るときも、腕に付けたままにしておく。
荷物は全部ロッカーに入れる。 カプセルまで持っていくのは、寝るときに要るものだけだ。 大きなかばんを寝床の前で開けようとすると、通路をふさいでしまう。 通路は、人が一人通れるだけの幅しかない。
一番大事なのは、音だ。 カプセルの入り口はカーテンか薄い板で、壁ではない。 隣の人のいびきが聞こえるということは、こちらの音も同じように聞こえているということだ。 だから、夜中にビニール袋をがさがさやらない。 電話は共用スペースでする。 目覚まし時計は使わず、振動で起きるようにする。
消灯の時間を過ぎると、通路の明かりが暗くなる。 そのころには、みんな自然と小声になっている。 誰かに注意されたからではない。
つまり、この宿の作法は一つしかない。 「すぐ隣にも人がいる」と思い出すこと。 それだけで、あの薄いカーテンが、ちゃんと壁の代わりをしてくれる。
