七つの名前
七月の初め、由紀は母に呼ばれて、デパートの七階に行った。 お中元の売り場は、贈り物の箱でいっぱいだった。 そうめん、ジュース、洗剤、ハム。 同じような箱が、机の上に何列も並んでいる。
「毎年思うんだけど、これ、意味ある?」と由紀は言った。 「送って、送り返されて。ただの習慣でしょう」
母は返事をしないで、紙のリストを開いた。 名前が七つ書いてある。
「そもそも、なんで七月なの?」
「昔から、この時期にご先祖様のお供えを配ったんだって。今は、お世話になった人にね」
「まず、そうめん。これは、父さんの前の会社の人」
「ほら、やっぱり適当じゃん」
「適当じゃないわよ」と母は言った。 「あの人、暑がりだから」
由紀は少し黙った。 母はリストの次の名前を見て、今度は桃の箱の前で止まった。
「この人は、歯が悪くなったの。だから、去年から固い物はやめた」
「……知ってるんだ、そんなことまで」
「毎年送ってると、分かるのよ。返事のはがきに、少しずつ書いてあるから」
三つ目は、コーヒーだった。 母は一番小さい箱を選んだ。 由紀が理由を聞くと、母は「一人で住んでるから、多いと困るの」と答えた。
そして四つ目の名前のところで、母の指が止まった。 由紀の知っている名前だった。 小学校のとき、母が入院した夏、毎日由紀を預かってくれた近所の人だ。 カレーの味も、その家のにおいも、まだ覚えている。
「この人には、何にする?」と由紀は聞いた。
母は少し考えて、「由紀が選んでいいよ」と言った。
由紀は売り場をゆっくり歩いた。 同じような箱が並んでいる。 でも、もう同じには見えなかった。 一つ一つの箱の向こうに、誰かが住んでいる。
由紀は冷たいゼリーの箱を取って、母のかごに入れた。 母はうなずいて、店員に注文の紙を渡した。 十五日までに届くように、と母は付け加えた。 それから由紀は、リストの下に、自分でもう一つ名前を書き足した。
