耳だけ
押し入れの菓子の箱に、写真が百枚以上入っていた。 塚本はそれを畳に、なるべく古い順に並べた。
「これ、誰?」と塚本が聞いた。
ふみは眼鏡を額に上げて、写真を目に近づけた。 学生服の男の子が三人、下宿の前に並んでいる。
「分からないねえ。みんな痩せてるから」
次の写真は、白いドレスの女の人だった。 髪が長くて、目が大きい。
「それは私」
「うそ。全然似てない」と塚本は言った。
「仕方ないよ。六十年も前だもの」
塚本はつい笑った。 ふみは若いころ、ある歌手のファンで、髪型を真似ていたらしい。 その髪の毛も、今は短くて真っ白だ。
たまに、ふみが一秒で答える写真もあった。
「これはうちの人」
写真の男の人には、眼鏡もひげもなかった。 今の祖父は太って、白いひげがある。 見た目は別の人だ。
「どうやって分かるの」と塚本が聞いた。
「耳」とふみは言った。 「この人の耳、少し前に出てるでしょう」
塚本は隣の部屋を見た。 こたつで昼寝をしている祖父の耳は、写真と同じ形だった。 耳以外は、何もかも変わっていたのに。
