真ん中の鍋
冬になると、日本の食卓に土鍋が出てきます。
鍋料理は、作り方がとても簡単です。 だしを入れて、火をつけて、野菜や肉や魚を入れる。 それだけです。 難しい技術は要りません。
でも、鍋がほかの料理と一番違うのは、味ではありません。 食べ方です。
普通の料理は、一人に一皿ずつ出されます。 自分のごはん、自分のおかず。 隣の人の皿には手を出しません。 ところが鍋は、テーブルの真ん中に一つだけ置かれます。 家族はその周りに座って、鍋を囲みます。 中のものは、まだ誰のものでもありません。 食べたい人が、自分で取ります。
だから、鍋の時間には小さなルールが生まれます。
まず、入れる順番があります。 火が通りにくい野菜が先で、葉っぱや豆腐は後です。 この順番を守らない人がいると、必ず誰かが注意します。 「まだ早い」「もう食べていいよ」。 こういうことを言う人は「鍋奉行」と呼ばれています。 少しうるさいですが、鍋奉行がいる家の鍋は、たいていおいしくなります。
次に、人を見ることになります。 最後の一つを取ってもいいかどうか、みんなが考えます。 誰かの器が空になっていたら、入れてあげます。 話しながら食べていても、目は鍋を見ています。 一人分ずつ分けられた料理では、こういうことは起こりません。
そして、鍋には最後があります。 「締め」と呼ばれる時間です。
野菜や肉から出た味が、全部そのスープに残っています。 そこにごはんを入れて雑炊にしたり、うどんを入れたりします。 多くの人が、これが一番おいしいと言います。 たくさんの材料が入ったから、そのスープができたんです。
最近は、一人用の小さい土鍋がよく売られています。 一人で暮らす人が増えたからです。 一人でも鍋はできますし、締めの雑炊も作れます。 ただ、入れられる材料は少なくなります。
冬の夜、湯気の向こうに家族の顔が見えます。 人が多ければ、材料も多くなります。 だから、みんなで囲んだ鍋のスープが、一番濃い味になるんです。
