一センチ
デパートの四階の美容室で、のあは眼鏡を外した。 鏡がよく見えなくなった。
「今日はどのぐらい切りますか」と若林が聞いた。
「少しだけお願いします。七日にパーティーがあるので」
「はい。丁度いいところで止めますね」
はさみの音がする。 のあには何も見えない。
「のあさんの髪、細いですね」と若林が言った。 「でも丈夫ですよ。背が高いから、短くしても似合います」
十五分後、若林が「はい、終わりました」と言った。
のあは眼鏡をかけて、鏡を見た。 首が全部見えた。 髪の毛は耳より短い。
「少しだけ切りました」と若林は言った。
四千円払って、のあは店を出た。 今度から「少し」は言わない。 「一センチ」と言う。
