裏に出ない紙
倉庫は店の裏にあって、天井まで棚が並んでいる。 たいがは脚立の上から、空になった一段を見下ろしていた。 祖父の代から続く小さな文具の店舗だが、今この棚には、いちばんよく売れるノートが一冊も残っていない。
「本当に、来月まで入らないんですか」とたいがは聞いた。
まゆは伝票を持ったまま、申し訳なさそうに頭を下げた。 「工場の紙が足りないそうです。この製品だけ、全国で止まっていまして。」
「うちみたいな店は、あの一種類で持ってるようなものなんですけどね。」
「代わりに、こちらはどうでしょう」と、まゆは足元の箱を一つ開けた。 「同じ工場の別の製品です。値段は三十円高いんですが、紙が少し厚くて。よかったら、一度試してみてください。」
たいがは一冊取って、めくってみた。 表紙の色は地味だし、中の線の色も少し違う。 常連の客は、たいてい同じ物を同じ数だけ買っていく。 急に別の物を出せば、何も言わずに駅前の大きい店へ行ってしまうだろう。
それでも、たいがは机の上の万年筆を取って、真ん中のページに自分の名前を書いてみた。 それから、そのページを裏返した。
裏には、何も出ていなかった。
彼はもう一度、今度は強く書いた。 やはり出ない。
「まゆさん、これ、何冊まで頼めますか。」
「え、いいんですか。さっきは、あまり気が進まなそうでしたけど」と、まゆは笑った。
「うちの常連に、書道を教えてる先生が二人いるんです。前の製品は裏に出るって、十年言われ続けてました」とたいがは言った。 「今月だけならいいけど、来月もこの続きだと困るな、って思ってたんですけどね。」
「では、来月分も今月と同じ数で。」
「いや、倍にしてください。一度これを使ったら、あの二人はもう前のには戻らないと思います。」
