初めての自己紹介
四月の朝、私は日本語学校の教室に入った。 学校は、駅前の国際交流センターの三階にある。
先生が「じゃあ、自己紹介をしましょう」と言った。 すぐに私の番が来た。
「リンです。台湾から来ました。よろしくお願いします」
それだけだった。 家で用意した文が、全部頭から消えてしまった。
隣の席のクラスメートが、小さい声で「趣味は?」と聞いてくれた。 ベトナムから来た人だ。
「あ……料理が好きです。父が台南で食堂をしています」
教室が少し笑った。 先生も笑って、「じゃあ、来週何か作ってきてください」と言った。
夜、寮の部屋からパパに電話をかけた。
「今日、自己紹介した」と私は言った。
「うまくできたか」
「ううん、全然。でも、パパの食堂の話をしたら、みんなが笑ってくれた」
パパは少し黙ってから、「それは成功だな」と言った。
電話を切って、私はノートを開いた。 明日は、クラスメートの名前を全部覚えるつもりだ。
