犬のせいというわけだ
けんたは、駅前の喫茶店で、三十分も待っていた。 約束の時間は、とっくに過ぎている。 ようやく現れた直樹を見て、けんたは言った。
「遅いよ。何かあったの?」
「ごめんごめん。電車が止まってさ」と直樹は、向かいの席に座った。
「事故?」
「いや、それが、変な話なんだ。となり町の駅で、線路に大きな犬が入っちゃったらしいんだよ」
「犬?」
「うん。それで、駅員さんが犬を捕まえるまで、電車を止めるしかなかった。その間に、後ろの電車も、どんどん遅れて……」
「なるほどね」
「つまり、一匹の犬のせいで、何千人もの人が、会社や学校に遅刻したわけだ」
けんたは、笑った。
「じゃあ、今日、直樹が遅れた原因も、その犬ってことか」
「そういうこと。だから、俺は悪くない」
「いや」と、けんたはコーヒーを一口飲んだ。 「俺も同じ線で来たけど、電車が止まる前にちゃんと着いたよ。つまり、直樹がもう少し早く家を出ていれば、遅れなかったわけだ」
直樹は、何も言い返せなかった。
