まだ四日
たいがが新しいアパートに引っ越したのは、四日前だ。 段ボールはまだ六つ残っている。
朝、目が覚めて、天井を見て、三秒くらい自分がどこにいるか分からなかった。 前の部屋は天井に丸い電気が付いていたが、ここは四角い。
台所に行って、湯を沸かそうとして、やかんがまだ箱の中だと気づいた。 開けたばかりの箱には、冬の服しか入っていなかった。 結局、コンビニで買ったばかりの紙コップに、ペットボトルのお茶を注いで飲んだ。
窓を開けると、下の道を自転車が通っていった。 前の家で朝に聞こえるのは、電車の音だけだった。 ここは坂の下に小学校があるらしくて、八時前になると子どもの声がする。
昼過ぎ、母から電話がかかってきた。
「もう慣れた?」と母が聞いた。
「まだ四日だよ」とたいがは答えた。
炊飯器を出したばかりで、米はまだ買っていない。 風呂の給湯器の使い方も、昨日やっと分かったばかりだ。 ゴミの日は、玄関に貼ってある紙を見ないと、今でも分からない。
夕方、近所を歩いてみた。 駅までの道は覚えたが、一本裏の道に入ると、もうどこにいるか分からなくなる。 パン屋の前を三回通った。 三回目にやっと、さっき通ったばかりの店だと気づいた。
夜、隣の部屋から誰かが帰ってきた音がした。 ドアの閉まる音が、前の家より近い。 壁が薄いのか、それとも、まだこの部屋の音に慣れていないだけなのか。
寝る前に、段ボールをもう一つ開けた。 中から、前の部屋の鍵が出てきた。 返したはずの鍵だった。
たいがは少し笑って、その鍵を新しい部屋の机の上に置いた。 段ボールは、まだ五つ残っている。
